欧州海上安全レポート
26-04-2. 欧州委員会が「OceanEye」を発表
欧州委員会は2026年3月2日付の発表において、EU主導の海洋観測イニシアチブ「OceanEye」の立ち上げを公表しました。欧州委員会が主催した会議「European Ocean Days 2026」(2026年3月2日~6日、ブリュッセル)での演説において、ウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、このプロジェクトを「海洋観測におけるEUのリーダーシップを強化し、海洋の潜在力を最大限に引き出すための主要なイニシアチブ」と位置付けました。さらに、このイニシアチブは「科学的知見を前進させ、ブルーエコノミーの競争力を高め、海上安全保障を強化し、海洋の健全性を保護する」ものであるべきだと述べました[2-1]。
このイニシアチブは、衛星、センサー、コンピュータモデルなどから得られるデータを統合し、科学者、企業、政策立案者などに海洋知識基盤を提供する、海洋の仮想レプリカである「欧州海洋デジタルツイン(European Digital Twin of the Ocean)」を基盤としています。これは、海洋の過去と現在の状況を把握するだけでなく、将来シナリオの予測にも活用される仕組みです。この新たな海洋観測イニシアチブのもう一つの柱は、無料かつオープンな海洋データとサービスを提供するコペルニクス海洋サービス(Copernicus Marine Service)です[2-2]。
《備考》 「デジタルツイン」とは、現実世界の対象物をデジタル上に再現した仮想モデルの総称です。ここでは、衛星観測、海中センサー、数値予測モデルなどのデータを一つのプラットフォームに集約し、海洋の状態をシミュレーション・可視化できる仕組みを指します。利用者はこの仮想環境上で、気候変動の影響予測、航路の最適化、沿岸防護策の検討など、さまざまなシナリオを検証することができます。
欧州委員会はまた、OceanEyeを、海洋の監視・観測を強化・拡大するための国際同盟の基盤と位置付けています[2-3]。この国際同盟が支援する対象は、ユネスコ政府間海洋学委員会(IOC: Intergovernmental Oceanographic Commission)が主導し、国連環境計画、世界気象機関、国際科学会議が後援する既存の国際的枠組みである「世界海洋観測システム(GOOS: Global Ocean Observing System)」です[2-4]。フォン・デア・ライエン委員長は演説の中で、GOOSを主導するIOCがすでにこの国際同盟への参加を表明していることに言及し、IOCを中心的な協力パートナーとして位置付けました。
OceanEyeは2026年内に欧州委員会から正式に提示される予定であり、EUは2030年までに欧州の海洋観測システムを完全運用化する目標を掲げています。また、国際同盟への拠出を募る誓約イベントが2026年9月に開催される予定です。さらに欧州委員会は、2026年から2027年にかけて、その資金提供プログラムである「ホライズン・ヨーロッパ(Horizon Europe)」から、国際同盟に対して5,000万ユーロを拠出すると表明しました。
このイニシアチブは、欧州委員会が欧州の海洋観測技術インフラを強化するとともに、海洋観測および海洋保護に関する国際的な取組を支援する意向を示すものです。
《備考》 EUにはMDA関連の仕組みとして、各分野の海上監視当局間の情報共有を可能にする「共通情報共有環境(CISE)」があり、その運用段階ではEMSAが調整役を務めています。また、その軍事分野には、EDAが立ち上げた加盟国参加型の海上監視情報交換システム「MARSUR」が存在します。他方で、これらは民生・軍事の両面で制度的に分かれており、一元的なEU共通MDAシステムには至っていないとの指摘があります。2023年に改定されたEU海洋安全保障戦略(EUMSS)はMDAの強化を中核目標に掲げていますが、OceanEyeがこれらの安全保障関連システムとどのように連携するかは、現時点では明示されていません。
(日本海難防止協会ロンドン事務所長 立石良介)
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